福岡地方裁判所 平成9年(わ)3号 判決 1997年6月09日
被告人
一
法人の名称 協和工業株式会社
本店所在地
福岡県中間市太賀三丁目一四番一五号
代表者の氏名
沼田正行
代表者の住居
同市太賀三丁目一四番一五号
二
氏名 沼田正行
年令
昭和一二年三月三日生
本籍
同市太賀三丁目四八九番地の一四三
住居
同市太賀三丁目一四番一五号
職業
会社役員
主文
被告人協和工業株式会社を罰金四〇〇〇万円に、被告人沼田正行を懲役一年六月に処する。
被告人沼田正行に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人協和工業株式会社(以下「被告人会社」という)は、福岡県中間市太賀三丁目一四番一五号に本店を置き、鉄骨組立、重量物機械据付等を目的とする資本金一五〇〇万円の株式会社であり、被告人沼田正行(以下「被告人沼田」という)は、被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括するものであるが、被告人沼田は、被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空の外注加工費及び雑給を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 平成三年四月一日から平成四年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が二億一八七九万四三四六円であったにもかかわらず、同年五月二八日、福岡県北九州市若松区白山一丁目二番三号所在の若松税務署において、同税務署長に対し、所得金額が四三一九万八五八七円で、これに対する法人税額が一五五三万一四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成九年押第二三号の3)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額八一〇三万八五〇〇円と右申告税額との差額六五五〇万七一〇〇円を免れ、
第二 平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が一億八九六二万五一三七円であったにもかかわらず、同年五月三一日、前記若松税務署において、同税務署長に対し、所得金額が三一四三万七五〇二円で、これに対する法人税額が一〇七五万七〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額七〇〇七万一二〇〇円と右申告税額との差額五九三二万五〇〇円を免れ、
第三 平成五年四月一日から平成六年三月三一日までの事業年度における被告人会社の実際所得金額が九六九一万九三九二円であったにもかかわらず、同年五月二七日、前記若松税務署において、同税務署長に対し、所得金額が二五一六万一九五三円で、これに対する法人税額が八四八万二二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の1)を提出し、そのまま納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三五三九万一四〇〇円と右申告税額との差額二六九〇万九二〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
注 各証拠に付した番号は、証拠等関係カード(検察官請求分)における請求番号である。
判示事実全部について
一 第一回公判調書中の被告人沼田の供述部分
一 被告人沼田の第二回公判における供述
一 被告人沼田の検察官に対する供述調書(乙2)
一 沼田信行の検察官に対する供述調書(甲10)
一 脱税額計算説明資料(甲5)
一 商業登記簿謄本(乙1)
判示第一の事実について
一 脱税額計算書(甲2)
一 押収してある確定申告書一綴(平成九年押第二三号の3)(甲9)
判示第二の事実について
一 脱税額計算書(甲3)
一 押収してある確定申告書一綴(同押号の2)(甲8)
判示第三の事実について
一 脱税額計算書(甲4)
一 押収してある確定申告書一綴(同押号の1)(甲7)
(法令の適用)
被告人両名の判示各所為はいずれも法人税法一五九条一項(被告人会社については、更に同法一六四条一項)に該当するところ、被告人会社についていずれも情状により同法一五九条二項を適用し、被告人沼田について各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上は刑法(平成七年法律第九一号附則二条一項本文により同法による改正前の刑法をいう。以下同じ)四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により各罪所定の罰金の合算額の範囲内で罰金四〇〇〇万円に、被告人沼田については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年六月にそれぞれ処し、被告人沼田に対し情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、被告人会社の代表取締役である被告人沼田が、被告人会社の法人税を不正に免れようと企て、架空の外注加工費及び雑給を計上するなどの方法により、連続する三事業年度において、被告人会社の法人税合計一億五一七三万六八〇〇円を免れたという事案である。
本件におけるほ脱額は右のとおり多額であり、ほ脱率も右三事業年度の加重平均で約八一パーセントと高率である。本件各犯行の態様を見るに、その内容は全く架空又は水増しされた外注加工費や、架空雑給の計上等多岐にわたっている上、これらの偽装をするため、仮名又は借名の預金口座を利用したり、取引先の依頼により又は自ら働きかけて、外注加工費の水増し請求をさせ、一旦全額支払いをした上で、後日、水増し分の全部又は一部を受け取ったり、虚偽の外注先支払表や給与計算台帳を作成するなどしており、しかもこれらは被告人沼田の指示のもと同人の実子沼田信行が統括・管理する被告人会社関連営業所でも行われていたものであってその手口は計画的かつ巧妙でありまさに組織ぐるみの犯行である。また本件各犯行の主要な目的は、脱税による利益を、被告人会社への受注を増大させるための工作資金とし、もって同社の規模を拡大させることにあったとされるが、これは結局のところ、厳に守られるべき租税納入の規範を無視して被告人沼田及び被告人会社の利益獲得を図ったというほかはなく、酌量の余地はない。しかも、本件脱税により得た利益のうち一部は、結局被告人沼田の長女の結婚披露宴の費用や車両購入費用、ゴルフ会員権の購入資金に流用されており、さらには、被告人沼田の愛人らへの手当てや競艇等の遊興費にまで充てられていたものであり、これらはつきつめれば、全く被告人沼田の私的な用途のために費消されているものと認められる。これらの諸点に鑑みると、被告人らの刑事責任は重いものと考える。
しかし他方、本件発覚後、被告人会社においては各事業年度について修正申告をなし、重加算税、延滞税は未納であるものの、本税の約三分の二に当たる一億一〇〇〇万円弱が納付されていること、本税未納付分についても具体的な納付計画が立てられ、福岡国税局もこれを承認していること、被告人沼田は本件犯行を素直に認め反省の情が認められること、被告人沼田には前科がないことなど、被告人らにとって有利な事情も存する。
よって、以上の事情を総合的に考慮し、それぞれ主文掲記の刑を科した上、被告人沼田についてはその刑の執行を猶予するのを相当として、主文のとおり判決する。
(検察官 奥村雅弘)
(私選弁護人 森統一(被告人両名))
(求刑 被告人会社につき罰金四〇〇〇万円、被告人沼田につき懲役一年六月)
(裁判長裁判官 照屋常信 裁判官 河本雅也 裁判官 宮本聡)